田原桂一「トルソー」
©︎ Keiichi Tahara, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery
ルーブル宮殿に宿る守護神達は幾世紀にもわたる光と空気と人々の視線を受けて
艶かしく磨き上げられ、いのちを持ってしまったのかのようだ。
石の地肌の奥深くに醒めることのない熱を蓄え、細胞分裂を繰り返すが如く、
エネルギーをやわらかく発光させ、長い年月のうちに表層につややかな輝きを獲得した。
それは、人々の空想、あるいは理想の肉体へと限りなく近づいていく。
群がる観光客の中に立ち尽くす石像の視線は常に彼方に漂い、
我々と対峙することを拒みつつも、 様々な人の想いすらその石肌の中に吸上げてしまうかのようだ。
閉館間際のがらんとした回廊に、セーヌ川越しの夏の暑い西陽が差し込み、
ゆらゆらと流れ出す空気の動きとともに、館内にこもった人々の熱気が出口から流出される頃、
エゴイスティックなヴィーナス達は、またただの石の魂にきっと戻ってしまうのだろう。
1951年京都府生まれ。1971年に渡仏。
そこで出会った日本の柔らかい光とは違う、ヨーロッパの刺すような鋭い光に衝撃を受け、写真家として活動を始める。
1977年、26歳にしてシリーズ「窓」でアルル国際フェスティバル大賞を受賞、一躍世界的な脚光を浴びる。2006年までパリを拠点とし、フランス政府からのプロジェクトをはじめ、光をテーマに写真、彫刻、インスターレーション、建築と幅広いジャンルで活躍、日本、ヨーロッパにて数多くの展覧会を開催する。
木村伊兵衛写真賞、ニエプス賞、フランス芸術文化勲章シュバリエ、パリ市立芸術大賞などを多数受賞。
主な作品集に『世紀末建築』(講談社)、『Architecture Fin-de-siecle』(Taschen America Lic)、『オペラ座 OPÉRA de PARIS』(文献社)、『LIGHT-SCULPTURE-PHOTOGRAPHY』(ASSOULINE/MEP)など。作品制作の一方で、カルティエ、ドン ペリニヨンなどの世界的メゾンの日本人初ブランディングコンサルタントとして様々なプロジェクトを手掛ける。2017年、プラハ国立美術館での世界初となる大規模展覧会を実現させる。